土井鉄蔵

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 素早く男性と老人の間に割り込んで、刀を自分の頭の上へ構えた。   「──っ!!」  さすがに渾身の一撃とでも言うべきか、その刀は想像していたよりも重たくて私は顔をしかめた。  ──このまま力任せに跳ね返すことは不可能だ。  そう悟った私は、水平にしていた刃先を下に斜めらせ、肩の力を抜いた。  すると力みの強かった老人の刃は、私の刃を滑り、地面に転げた。  確かこの技は斉藤さんに教わったものだっただろうか……。  それから私はすぐに体制を立て直し、老人の横に落ちた刀を邪魔にならない方へ放ると、倒れ込んでいる男性の背を踏みつけ、首もとに刃を付けた。  既に先の抜き胴で受けた腹の傷の出血のせいで意識朦朧としているだろうが、油断してはこちらも危ない。 「……先に刀を上げたのは、あなた達ですよ」  湧き上がる恐怖心に耐えるように言い訳のような言葉を吐き、私は刀を手前へ引いた。  皮を裂き、肉を斬り、硬い骨を手に感じながらも私は手を止めなかった。  勢い良く溢れ出す血に軽く吐き気を催しながらも、老人の首が力無く地に落ちる様を私は目を背けることなく見届けた。  それが、せめてもの礼儀だと思うから……。 「なかなかやるのう」  血振りをして納刀も済んだところで、見計らったように男性が声をかけてきた。  確かめるまでもなく襲ってきた全員が事切れているのは一目瞭然だった。  もう傷を負って苦しむ荒い息も何も聞こえはしない。 「凄いのは貴方です。 私はもう放って置いても事切れるはずの方のトドメを刺しただけですから」 「いや、最後の柳はまっこと大した判断力ぜよ」 「そ、そんな……! あのお名前を伺ってもよろしいですか?」 「儂の?」 「あっ! 駄目なら良いんです!」 「いんや……儂は土佐の岡──」  そこまで言って、男性は口を噤んだ。  視線を下に落とし少し慌てたように刀を鞘に納めると、改めて私を見据えて言った。 「──儂は、土佐の土井鉄蔵っちゅうが者じゃ」 「土井さん……」  聞いたことの無い名前だった。 この不思議な言葉も土佐の方言なのだろうか……。 「おまんの名前は?」 「あ、私は江戸の香取実景です!!」  名乗った途端、土井さんの目が微かに見開かれた。
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