第1章 ツいてるっつーか、憑いてるよね確実に

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「鬱だ……」  記念すべき一言目がこんな言葉でいいのだろうか、と自問自答してみたところで、どうせ何も始まらないし、何の解決にもならないのだ――そんな自分本位な結論を出してしまう程、今の俺の心中は荒んでいた。  よく晴れた春の空は地平線の彼方まで蒼く澄み渡っている――というのに、それに相反して、俺の心の中はまるでゲリラ豪雨にでも降られているかのように、違った意味でブルーに染まっている。  たとえ俺の表情や一挙一動が誰かの気分を害することになっても、それに気を留める余裕なんてものはこれっぽっちも、微塵も、欠片もありはしない。  俺という存在を一言で表せば“不運”となるのだろう。  自虐的、と言われればそうかもしれないが、たとえ俺の友人に同じような質問をしたところで返ってくる答えは同じなはずだ。断言できる、できてしまう。  それほどまでに俺の人生の運不運バランスは偏りすぎている。もしそれを量る天秤があるならば、不運の乗った方が地面について、なおもぐいぐいと地面を掘り、削り、抉り、下降を続けていることだろう。  少し具体例をあげてみよう。  ……いや、おめーの不運自慢なんか聞きたくねーよ、と言いたいのはわかるが、後生だ聞いてくれ、いや聞いてください。こうやって話して同情を誘うことでしか報われた気分になれない哀れな憐れな俺の話を、どうか聞いてほしい。  今朝のことだった。  日光の眩しさを瞼の向こうに感じながら俺は起床した。普段は目覚まし時計で起きているのに今日は珍しく自力で、自然に起きられたなぁ、なんて思いながらなんとなしに時計を見てみると、その針が止まっていた。短針が2と3、長針が6の辺りで止まっていた。どうやら電池切れらしかった。  寝ぼけ眼で、頭も半覚醒状態の俺だったが、それを見て一気に覚醒した。慌てて携帯の時計を見ようとベッドから起きようとしたら、シーツが足に絡まって鼻から床に落下し、鼻血が出た。  この時点でもすでに、十二分に、泣きそうなくらいに(というかあまりに鼻をぶつけたのが痛くて実際に泣いた)運が悪いが、しかし“このレベルなら”あくまで運が悪い程度だった。  不運と言うのも烏滸がましい。ただ単純に、幸運の否定である。  その程度じゃあ、不運の肯定にはならない。
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