第1章 ツいてるっつーか、憑いてるよね確実に

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 その後、泣きながらティッシュを鼻に詰めてから、ようやく携帯のもとに辿り着いた――と思ったのだが、その手前で床に置きっぱなしにしていた鞄に躓き、その拍子に机の脚に俺の足の小指をぶつけ、さらにさらにその衝撃で机上にあった携帯が床に落ちた。バリッという嫌な音とともに。  携帯を拾って開くとディスプレイが割れていた。そして前日に充電したばかりなのに画面が真っ暗になっていた。  これ以上は涙するまい、男の涙はこんなに安っぽくない、そう自分に言い聞かせ、リビングのテレビをつけて時刻を確認すると、なんと九時だった。  少し話が変わるが、俺の通う“国立光翼(こうよく)学園”はあまり校則は厳しくない。髪を染めようが、誰と交際しようが、行き過ぎない限りはある程度寛容だ。  しかし、こと遅刻に関しては厳しい。指定時刻の八時から一分、どころか一秒でも過ぎると門が閉鎖され、遅刻した者はしばらくそこで待ちぼうけを喰らった挙げ句に罰則が科せられる。その罰則は場合によって異なるのだが、どれも例外なく面倒くさくうんざりするようなものばかりなのだ。  本当に妙なところで厳しいのだ。  とにかくそんなわけでほとんどの生徒は遅刻をしないように早めに起床し、早めに登校するのである。  しかし俺にはもうどうしようもなかった。  俺の住んでいる下宿先から最寄り駅まで五分、電車に乗る時間は十五分、そこから学校までは十分――と合計三十分もかからない。寝過ごしても走れば間に合う時もある。しかし今回の俺にはその努力すら許されなかった。本当にもうどうしようもない。何がって自分自身が。  早々に諦めた俺は、それでも気持ち急ぎめに朝食を終え、準備を済まし、罰則のことを考えて憂鬱な気分になりながら家を出た。  道を歩いていたら、前日に降った雨のせいで出来た水溜まりを車が通った時に跳ねた水でズボンが濡れた。  それを小学生に馬鹿にされた。  マダムにクスクスと笑われた。  犬に吠えられた。  泣きたくなった。
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