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「あたしはあんたと似たような職業さ。あそこにいたのはあたしがトチって捕まったから。以上さ」
レイは肩をすくめて答えた。
やや自嘲めいた笑みを浮かべながら。
「まだ二日目だったから助かったよ、ホント。あんな変態の元にいれば身が持たない。腹が減って死にそうだった」
変態の方だったのか……。
確かにバーに逃げ込むなり、まず要求したのは飯だった。
トニー特製のチャーハンを軽く平らげていた。
「そうだったのか」
これ以上、言及するつもりは無かった。
この世界で詮索屋は嫌われる。
あれこれ興味本位で訊くのはタブーだ。
「今度はあたしだ。まずはあんたのクライアントについてだな」
「なぜクライアント?」
「単純に興味だ。が、あたしが知っている奴ならもっとマシな仕事を貰えるかもしれないぞ」
それもそうかと思い、答えることにする。
「カルロス・ヴァリエッタ。クラブ・サクバスの親分さ」
クラブ・サクバスはここらへん一帯を仕切る組織の名だ。
こんな街でも、ある程度の秩序が保てられている。
それは大きな組織が牛耳っているためだ。
崩れた秩序ではあるが、秩序は秩序なのだ。
「ドン・ヴァリエッタだな。OK」
この街で彼のことを知らない者はモグリとされている。
面識が有る無しは置いておいて、知っていて当然だろう。
「次の質問だ。その銃はどこで手に入れた?」
レイが指さしてきたのは、ショルダーホルスターに収まっているP226だった。
「ここらの市場じゃ取り引きされていない、かなり上等な銃だぞ」
確かに、ほかにこのP226を持っている人はぜんぜん見ない。
模造品なら見たことあるが、本物を持っているのは、この街で自分一人くらいだろう。
「これは軍人だった親父の形見さ。ほかの銃は使う気になれない」
このことについては、できればあまり思い出したくない。
なのですぐに話を断ち切ろうとした。
「なるほど」
それはレイの方でもくみ取ってくれたのだろう。
それ以上は訊いてこなかった。
そしていつのまにかクラブ・サクバスの前に立っていた。
映画館のような建物に大きく「CLUB SUCCBUS」とネオンが掲げてあった。
本拠地である事務所は別の場所だが、所詮まだ無名の傭兵だ。案内されるわけがない。
「ミス・ジェニファーに仕事の報告をしに来た」
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