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入り口に立っている体格の良い黒人にそう伝えると、彼は道をあけた。
「奥の部屋だ」
中に入り、薄暗い廊下を進む。
奥の部屋に行くにはバーホールを抜けなければならない。
暗くなった店内にはすでに客が入り、酒を片手にピンク色に妖しく照らされたステージを見ている。
そこでは、ほぼ裸の女性がポールダンスを踊っていた。
「完全に場違いだね」
壁際を通りながら後ろを歩くレイに話しかける。
「新しい娼婦と間違われそうだ」
冗談を言えるだけの余裕はあるようだ。
このホールを抜ければ、また廊下が続く。
だが、入り口の廊下とは違って左右にドアが三メートル間隔で並んでいる。
ここはいわゆる、個人に対する接待に使う部屋だ。
その最奥、突き当たりにあるドアが目的地だ。
二つ、ドアをノックした。
「良いわよ」
色気を含ませた声が奥から聞こえた。
「失礼します」
ドアを開けると、下着姿の女性がソファに寝そべってタバコを吹かしていた。
彼女がこの店を任されているミス・ジェニファーだ。
「あら、女衒の仕事も頼んだかしら?」
タバコを灰皿に押しつけながら言った。
視線はレイに向いている。
「いえ、違います。俺のツレです」
和輝はジェニファーの机を挟んで正面のソファに腰を下ろした。
レイも顔色を変えずにその横に座る。
「そうなの? 残念。久しぶりに当たりが来たと思ったのに」
「そりゃどうも」
レイはぶっきらぼうに応えた。
そして脚を組んで背もたれに寄りかかる。
「それじゃビジネスの話をしましょ。仕事は完璧?」
「現場は押さえました。やはり勝手にヤクをばらまいているのは奴らです。ですが、その途中で見つかってしまったんです。なんとか撒いたんですが……」
出されたお茶、ではなくて酒を口にする。
来る度に出される酒を飲むので、いい加減アルコールに強くなった。
「あ~。それじゃ早めに兵隊を送らないといけないかもねぇ」
兵隊、といっても軍を持っているわけではない。
組織間の闘争や敵対勢力の排除などで一戦で戦う組織員のことを兵隊と呼んでいるのだ。
「ちょっと待った」
突然、レイが間に入ってきた。
組んだ脚を戻して身を乗り出してくる。
「こいつとあたしにその処理を任せな」
「なっ……」
突然なにを言い出すんだ、と和輝は思った。
名もない傭兵なんかにそんな仕事を寄越すはずがない。
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