飛躍

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「自分のケツくらいは拭かなきゃ、名は売れない。だよな?」 「そうねぇ……」 ミス・ジェニファーはタバコに火をつけた。 一度煙を吸って吐き、灰を灰皿に落とした。 「ま、良いんじゃないかしら。こっちの手間も省けるし」 「え、ミスター・ヴァリエッタの了解は取らなくて……」 「大丈夫。この件は私が一任してるから問題ないわ」 兵隊という単語が聞こえたので、てっきり本部が動くのかと思ったのだ。 考えてみれば、大きな組織がそれほど大きくない組織を叩くのに身体のすべてを動かす必要はない。 「それに、そんな大きなところってワケじゃないし、名前を売るには絶好の機会じゃないかしら?」 すると目の前に紙の輪で止められた札束が置かれた。 「奴らを潰したら報酬はこんだけ。前払いとしてになるけど、偵察のお仕事の報酬よ」 ミス・ジェニファーは札束の中から十枚を抜き出して差し出してきた。 もう諦めてそれを受け取った。 クラブ・サクバスから出るなり、ため息をした。 初めての大きな仕事、緊張してしまう。 「要は慣れだ慣れ。慣れちまえばこんな仕事、なんでもないさ」 と、レイが肩を組んでくる。 正直、まったく自信ないし、それが余計に不安を煽る。 「腹ァ括っちまえよ。一回やっちまえば慣れるさ」 いつまでもクヨクヨしても仕方ない。 言われたとおり、腹を括って奴らの元に向かうことにした。 奴らはギャングスタとか言うチンピラの集まりだ。 エリアを仕切る組織に反抗するかのような行動を取るが、その大体が陰で行われ、しかもかなり規模が小さい。 そこらに居るヤク中と大して変わらない。 「ま、ケツの穴が小せェ奴らにお説教をすればいいわけだな」 ギャングスタのアジト、と言うより廃墟についた。 ここら一帯の中で一番ヒドいんじゃないかと思える建物だ。 屋根は落ち、壁も雨風を遮るには不十分すぎる。 中も背丈の高い草が床の間から太陽を求めて這い上がっている。 「いかにも悪ガキが好みそうな秘密基地だね」 「その悪ガキに和輝は殺されかけたわけだ」 「……反省してるよ」 「誰も反省しろとは言ってない。あたしを逃がしてくれただけで大量のお釣りがあるよ」 レイはレッグホルスターからガバメント二挺を取り出し、両手にそれぞれ持った。
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