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透き通るように晴れ渡った空、その中を自由気ままに泳ぐ雲。
太陽は障害がほとんど無いのを良いことに、これでもかと光を地上に注ぐ。
土手に大の字になって空をじっくりと見ることができれば、平和を感じることができよう。
だが、そんなことをしている余裕など、この街では誰も持ち合わせていなかった。
古びたビルの谷間を縫う風の音は銃声にかき消され、罵声や怒声が鳴り響く。
柄の悪い男たちが拳銃を持って周りをキョロキョロと首を回していた。
全員、S&W M29(リボルバー)の44口径マグナムでそろえている。
「どこいった、あいつ!」
「くそっ!! 見つけ次第、殺せ!」
青年はゴミくず入れの陰に隠れていた。
身を低くし、息をする音にすら警戒する。
奴らの持っているマグナムならば貫くことが出来るだろうが、見つからなければ撃たれることはない。
手に持つSIGザウエルP226(ハンドガン)には弾が数発しか入っていない。
予備のマガジンも使い切って空のマガジンしか持っていない。
サイレンサーが付いているので外さなければ全員を倒せるかもしれない。
だが、当てる自信はない。
なのでやり過ごすのが賢いやり方だ。
「オレらはあっちいくからお前らはあっちに行け。なんとしても探し出すんだ!」
急ぐ足音が遠ざかっていく。
少しして静寂が訪れた。
「なんとかやり過ごせたか……」
青年、秋山和輝(アキヤマ カズキ)は顔を上げた。
逃げているときには分からなかったが、すぐそこは広場だった。
枯れた噴水、落書きされた上に破壊されたベンチ、倒れて土をこぼす植木。
ビルに囲まれたこの場所は人々の憩いの場所だったのだろう。
だが今はこうだ。
すべては数年前の戦争が引き起こした産物だ。
結果、和輝の家族は死に、世界中の治安は乱れた。
そして人々は平和から突き放された。
それだけなのだ。たったそれだけ。
それだけのことで、こうも変わってしまうのだ。
「いたぞ! こっちだ!!」
跳弾が足下を飛んだ。
踵を返して路地裏に逃げ込む。
ここは障害物が多いが、弾除けも多い。
逃げるのは昔から得意だ。
だから、逃げ方もよく心得ている。
曲がり角を曲がってすぐそこのドアに駆け込んだ。
閉めると同時に鍵も閉めた。
背中をつけて簡単に開けられないようにする。
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