prologue

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ドタドタとお世辞にも綺麗といえない足音が鉄のドア一枚隔てた先を通り過ぎた。 どうやら巧くやり過ごせたらしい。 入った場所は周りを見渡すまでもなく、ただ地下に降りる為の階段があるだけだ。 このまま戻ったら、あいつらが戻ってくるかもしれない。 それに、どこかに繋がっていたら距離も稼げてラッキーだ。 万が一ということもある。 ザウエルを構え直して一段一段降りていった。 壁はコンクリート、階段もすべてコンクリートで出来ていて、外に比べてどこかひんやりとしている印象だ。 空気もジメジメしていて、肺にカビが生えそうだ。 一段、一段と階段を降りていっているが、いたずらに暗くなるだけでなかなか終わりが見えてこない。 そんなことを思っているとき、ようやく終わりが見えてきた。 そこは短い廊下だった。 距離にしてだいたい5mくらいだろう。 その先には鉄のドアがあるだけだ。 ドアに近づき、静かに耳を当てた。 話し声はしないし、人の気配もない。 ドアノブに手をかけ回そうとしたが、鍵がかかっている。 「…………仕方ないな」 ハンマーを起こし、ザウエルの銃口を鍵穴に向けた。 引き金を引くと、空気を裂く音とともに金属が破壊される音が響いた。 少し遅れて薬莢が落ちる音がこだました。 どうやら一発で済んだらしく、ドアノブが回せるようになっていた。 ザウエルをしっかりと構えながらドアを開いていく。 そこは部屋になっていた。 ドアのすぐ上に裸電球があり、心許ない光で部屋の中を照らしている。 部屋の真ん中から鎖が垂らされており、それに腕を引っ張られるようにして立たされている人がいた。 背中まで届きそうな長くて赤い髪、大きな胸の膨らみから女性だと分かる。 着ている服は粗末なもので、まるで囚人服だ。 その服にはまるでナイフで切り裂かれたようにいくつもの裂け目があり、血が滲んだ痕がある。 おそらく、足下に転がっている鞭で叩かれて拷問を受けていたのだろう。 事実、女性の露出している身体すべてにアザや傷が刻み込まれている。 「……おい」 女性が顔を上げた。 思わず銃を構えるが、抵抗できない人に銃口を向けても意味がない。 だが、金縛りにあったように銃口が降りない。 赤い髪の中から鋭い眼が見えた。 だが、その眼には殺気はなかった。
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