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三年前、世界中を巻き込む戦争が起きた。
きっかけは油田の占有権を巡る争いだった。
言い争いが続いて争いが争いを呼び、やがて痺れを切らした一国が相手国を先制攻撃した。
そして報復と言う形で反撃が始まり、やがて多くの国々を巻き込んだ大きな戦争へと発展していった。
その巻き込まれた国の中には軍を持たない国もあったが、そういった国も半ば強制的に参加させられた。
戦争は長引き、国と人は疲弊してしまった。
その結果、戦争に勝者は居なくなり争いは自然消滅した。
貧しいながらも、人々は再び平和な日々を送れると喜んだ。
だが、そうは簡単に問屋は卸さなかった。
国が疲弊したことによって統治能力など皆無で、秩序を保つことも出来なかった。
結果、恐喝や窃盗に始まり、スリ、強姦、強盗、果てには殺人や麻薬の横行が当たり前になった。
善人は死んで悪人が生きのびる、理不尽な世界になったのだ。
そんな世界でも、不思議と酒は当たり前のようにある。
シェリーズバー。
付近の悪党の憩いの場であり、秋山和輝の住処でもある。
和輝はバーカウンターのイスに座り、頬杖をして窓の外を見ていた。
「珍しいな。あんたがトチるなんてな」
バーの主人、トニー・シェリーがグラスを洗いながら言った。
「ただヤク撒きを見てくるだけだろ? ガキにだって出来る」
この男、見た目はちょび髭でメタボ気味のただのオッサンにしか見えないが、元々軍にいたらしく、射撃の腕はトップクラスだったそうだ。
ここにこの店を構えた当時、チンピラの強盗に入られたが、三秒で返り討ちにしたと言う伝説がある。
「トチってはいないよ。野良犬にワンワン吠えられただけさ」
見るだけなので、要は殺されなければ良いだけの簡単な仕事だ。
なので報酬は、一日暮らせれば良いだけの額だ。
「傭兵ってのも大変だな。名が売れないうちは」
和輝は一応、傭兵と言う職業に就いている。
響きは良いものの、名前が売れなければ雑用代行のようなもので、本当に安い報酬の仕事しか入ってこない。
トニーが仕事を持ってきてくれるだけ、まだマシだ。
そのとき、店の奥に繋がるドアが開いた。
「待たせたな、和輝」
出てきたのはレイだった。
ボロボロの囚人服は脱ぎ捨て、新たな服を身にまとっていた。
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