屋上にて

2/6
前へ
/9ページ
次へ
午後の校舎。 吹きっさらしの屋上。 水を吸い上げ、 うなる給水タンクの上に彼女はいた。 木下 恭子 平凡な名前だと、彼女自身思っている。 でも名前なんか、 そのものを示すには取るに足らないことも分かっている。 現に、彼女はクラスの人の名前なんて覚えてないけれど、 今までやってこれているから。 彼女はこれまで、その名前に沿うように平凡に生きてきた。 地味でもなく目立つわけでもなく、 まさに中の中のこの高校に入学。 そして2学年、17歳。 今まで彼氏は2人。 キスはしたことあるけどセックスはまだ。 クラスでは5人の仲良しグループで行動して、トイレへみんなで行って、 先生には怒られないように上手く愛想笑い、たちまわった。 曖昧のふちを歩いていた。 でも今ははっきりした感情が彼女の中にある。 その平凡な命を、今絶とうとしている。 最後なんだから、 最後まで平凡で終わりたくない。 この広くもない汚い屋上で。 誰もいない屋上で。 自分で自分の肩を抱いて目を閉じる。 目には見えないけど、下の校庭のほうで運動部が叫ぶ声。 青春の熱気。 叫んでいた昨日の自分を 思い出して……思い出しても あたりまえの日常に、涙を流すことはない。 生ぬるい風が頬をなでた。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加