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午後の校舎。
吹きっさらしの屋上。
水を吸い上げ、
うなる給水タンクの上に彼女はいた。
木下 恭子
平凡な名前だと、彼女自身思っている。
でも名前なんか、
そのものを示すには取るに足らないことも分かっている。
現に、彼女はクラスの人の名前なんて覚えてないけれど、
今までやってこれているから。
彼女はこれまで、その名前に沿うように平凡に生きてきた。
地味でもなく目立つわけでもなく、
まさに中の中のこの高校に入学。
そして2学年、17歳。
今まで彼氏は2人。
キスはしたことあるけどセックスはまだ。
クラスでは5人の仲良しグループで行動して、トイレへみんなで行って、
先生には怒られないように上手く愛想笑い、たちまわった。
曖昧のふちを歩いていた。
でも今ははっきりした感情が彼女の中にある。
その平凡な命を、今絶とうとしている。
最後なんだから、
最後まで平凡で終わりたくない。
この広くもない汚い屋上で。
誰もいない屋上で。
自分で自分の肩を抱いて目を閉じる。
目には見えないけど、下の校庭のほうで運動部が叫ぶ声。
青春の熱気。
叫んでいた昨日の自分を
思い出して……思い出しても
あたりまえの日常に、涙を流すことはない。
生ぬるい風が頬をなでた。
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