屋上にて

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どこかで誰かから聞いたことがある。 最もきれいな死に方は凍死。 最も楽に死に方は老死。 それが本当かどうかは彼女は知らないが、 多分その通りだろうと思っている。 でも凍死はつらいし、 老死は無様だ。けれど赤は美しい。 だからここから飛び立とうと思うのだ。 瞳をあけると直射日光をあびていたせいで、 頭がくらくらして見える風景は褐色だった。 こめかみを押さえながら立ち上がる。 鳴く給水タンク。 この上に立ってみると、 さっきは声しか聞こえなかった運動部たちの姿が見えた。 夏の終わりに暑苦しい。 汗臭いのを人が青春だと微笑むのなら、 自分には そんな気持ち悪い春など 来なくていいと思った。 だいたい、青い春って何だ。 春は普通、桃色だろう。 当たり前に誰もが越えていく思春期、青春。 春が特別素敵なものだとでも思っているのか。 平凡な当たり前の彼女に、 ひとつ、人とは違うこと。 その2つの春のどちらもを越してないこと。 経験あるのはさくらが舞う季節の春だけだ。 別にそれでいい。そう思っている。 そうやって流れて、そのまま自然に息絶えゆく。 それが、嫌なだけ。 でも、ただ黙って死んでいくのもなんなので、 手紙を書こうと思う。 ただひとり、愛する人に向けて。  
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