屋上にて

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拝啓―――――――― 「木下さん!!!」 落ちていく。 ひっくり返った世界の中で、 走馬灯を見ていた彼女の耳に届いた。 ばたんという 屋上に続く扉が立てる派手な音と、 自分の名を叫ぶ声。 「なにしてんだ木下さん!!」 その姿を見た。 彼女は無意識に、 重力に逆らおうと、フェンスの金網を握る。 駆け寄ってくる、彼女を呼ぶ姿。 その手には遺書というには程遠い紙ヒコーキ。 いつの間にか消えた陽の光と、 校庭にあった叫び声に気が付く。 体重を支える腕が千切れそうなのを感じる。 だけどもう、どうでもいい。 冷たい風に涙がこぼれていく。でもあたたかい。 拝啓―――――――――― 歪んだ視界の向こう、フェンスの向こうに愛する人。 拝啓、あなた。 わたしはあなたと歩きたい。 平凡でも、構わない。 わたしと曖昧のふちを 何も解決しないこの日常を 気が済むまで当たり前に生きることを
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