炎天下、西よりの来訪者

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──── 「なぁ、和臣~。お前友達だろ? 親友だろ? 無二の盟友だろむしろ未来の義弟だろ?」 「誰が義弟だ。……友達とは認めるけど、それで何だよ?」 「明日から夏休みだ。高校生と言えば、きっと素晴らしいひと夏の青春を謳歌することだろう……だが」  終業式を終えて、昼頃に放課後を迎えた教室。その教壇の上に立って芝居じみた力説をするのは、クラスメイトの中田川である。  まだ多数の生徒が残っているというのに、お構いなしにこの男は胸中を語る。正直、屋外よりも暑苦しい。 「俺達には、それにあたりおぉーきな障害がある。分かるか?」 「全然」 「そう、ぼくらの夏休みを遮る障害。それは……」  和臣を無視した中田川の言葉は、そこから先には続かなかった。真剣な表情であえて留められたであろう先の台詞によって、妙な緊張感に包まれる。  気がつくと、教室中が沈黙の中にあった。中田川の深刻な雰囲気に呑まれてか、他の生徒達もいつの間にか黙り込んでいたのだ。  それまでは気にならなかった冷房の微かな音や、遠くに蝉の唱和がいやに大きく聞こえる。  周囲の生徒が固唾を呑んで見守り、和臣がもう夏だなぁと感じ入っている中、中田川はついに告げた。 「──補習だ」 「俺はこういうことを言うキャラじゃないと自負してるんだけどな。──死ね」 「予想以上に辛辣なツッコミ!?」  和臣の心からの言葉に、何故か中田川は涙目で喚いていた。  他の生徒達の反応はと言うと、和臣に同調してうんうん頷いているか、中田川の方に同情して涙しているかだ。  後者の方はおそらく中田川と同じ、思わしい成績を確保できずに補習という自業自得に身を伏している連中だろう。  そういう成績底辺者とは何の関係もない、ちゃんと学生らしく勉学に励んでいる連中はすでに帰宅しているか、寸劇に苦笑しながら教室を出ていく。
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