炎天下、西よりの来訪者

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「なんでんなこと言うんだよぅ。お前も仲間じゃねえのかよぅ」 「ぐっ。お、俺は……今回たまたまテストの出来が悪かっただけで……」 「ふっふっふ。確かにこれまでのお前の成績は学年でも上位だ。しかしそれは過去の栄光! 今のお前は俺達と同じ補習組なんだよぉ!」  認めたくない事実。未練がましく言い訳をする和臣に対して、中田川他はがっちり肩を組み合ってにやけた笑みで勝ち誇っている。  どこに勝ち誇れる要素があるというのか。確かに和臣は補習組に名を連ねてしまったが、それでも中田川達には一教科たりとて遅れはない。  和臣が補習に至ってしまった理由があるにはあるのだが、それは迂闊には口外できるはずもない事情だ。  主人公を窮地に追い込んだ悪役のごとく下卑た笑みを並べる馬鹿共に、反論したくとも唸るほかない和臣。  そんな歯痒い状態を一変させたのは、教室のドアが開かれる音だった。 「──まだ、こちらにいらしたのですか。……お迎えに、上がりました」  静まった空気の中に躊躇うことなく踏み込んだのは、眼鏡をかけた女生徒である。  一見世間離れしているようにも感じられる小顔にあるのは、鉄壁の無表情。頭の両端に結ばれたツインテールが、その可憐さを一層引き立てる。  身にまとうのは彩倉高校の女子の制服。少々サイズが大きいようだが、それが逆に彼女を小動物めいた可愛らしさに仕立てていた。  襟元にあるバッジはこの少女が一年生であることを示す襟章。  つまり、彼女は二年生の教室に物怖じすることもなく乗り込んできた一年生ということになる。 「……どうし、ました?」  反応のない和臣に、少女は無表情のまま小さく首を傾げた。  短い文章でも区切って話すのは癖なのか、あるいはその他の理由によるものなのか。  いや、そんなことはどうでもいいのだ。この少女の登場が、この場にどういう影響を与えるか。数秒後の未来がありありと浮かんで和臣は密かに嘆息した。
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