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本心からと言った様子で十華が疑問を口にした。それなりに全力で走ってきたにも関わらず、やはりこの少女の息は乱れていなかった。
むしろ男であり、長年剣道で運動しているはずの和臣の方が呼吸が乱れている。
「どうしても、だ。あいつらに絡まれると無駄に面倒だからな。こういう場合は逃げるが勝ちなんだよ」
「……分かりました」
和臣の言い分に頷くと、十華は一年生の下駄箱の向こう側に消える。和臣も急いで上履きを脱ぎ、学校指定の革靴に履き替える。
靴を履き替えた十華がやってくるのと、熱気を滾らせる馬鹿な追手が追いついたのはほとんど同時であった。
「居たぞ!」
「和臣、待ちやがれ!」
「待てと言われて待つ奴がどこにいるよ?」
最後の捨て台詞を残し、和臣は十華を伴って昇降口から外へ飛び出した。途端に切り替わる明暗に目を眇めつつ、カラッと晴れ渡った夏の空の下を駆けていく。
それが、古我屋和臣の平和な一日の出来事であった。
────
魔術師は、古き時代から世の中枢に関わってきた。
彼らが自然と対話し、その力を意のままに操る魔法使いであった時代。精霊の言葉を聞き、それを民に伝える女王があった時代。
今では歴史の彼方に埋もれた事柄の続きは、現代にも残っている。
日本においては、古代より国の政に携わってきた【四皇家】。かつて陰陽師が国を導いた時代があった。
魔術が今なお根付く欧州においては、【円卓】と称される連合結社。
観測。論議。決断。この三つを司るそれぞれの結社が【円卓】に名を連ね、欧州を中心として魔術師達を導いている。
そうした魔術に関わる者の強い影響下にある政財界の重鎮たち。この構造によって神々の騒乱は隠蔽され秘匿され、一般人は知る由もない。
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