炎天下、西よりの来訪者

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 世界都市として名高い都、ロンドン。この古都の中心部を横断するテムズ川南岸の河畔に、グリニッジ天文台は存在する。  グリニッジ標準時の基準となる地だ。天文台としての役目を終えた今も、かつての大航海時代を支えた偉容が窺える。  この天文台を起原とし、いにしえの知恵と技術を脈々と受け継ぐ魔術結社がある。 【グリニッジ天文院】。魔術の地、欧州にて絶対の権威を誇る【円卓】の一角を担い、神々が来臨した今日に置いて、その意義は盤石のものとなった。  本来、欧州でいわれる結社とは、魔術師達によって構成される秘密組織である。古き先人の叡智と技を伝え、守り、受け継いでいく。  その役目と、次第に科学の発展を急進する世界に呑まれぬよう、互助組合として寄り集まったのが発祥とされる。  【円卓】における観測を司るこの結社の役割は、星を観ること。星は星座を描き、星座は神話を紡ぎだす。  すなわち、神々の監視である。  神々の動きに注視し、異常あらばそれを報せ警戒を促す。  彼らが監視するのは、何も神だけではない。今や神と同列に至った人間──神殺しもまた、彼らの監視対象である。  その目が今、極東の島国に誕生した最も新しい神殺しへと向けられていた……。 ──── 「それでさ、十華。いつも言ってることだけど、何も俺に付き合うことはないんだぞ?」  これは、学校からの逃走劇を切り抜けた逃亡者による会話の最初の一言である。  といっても、会話の糸口を見つけ出すのは常に和臣の役目だ。隣に並んで歩く少女は、必要が無い限り自分から話しかけてくることはない。  まあ、無理に話しかける必要もないのだが、ただ黙々と歩き続けるのも息が詰まる。 「これは、私の任務です。……あなたをお守りしなければ、なりません」  さも当然のように十華は答えた。いつもと同じ回答だ。  無口無表情無感動。無の三冠をもつ桐峯十華は、単なる転校してきた後輩──ではない。
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