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「学校の方はどうですか? ちゃんとラブコメしてますか?」
「……問題、ない」
「そうですか、それは何よりです。……でしたら今度は、手作りのお弁当で攻めてみましょうかねぇ。それで『余ったからあげるわ。腐らせるのが勿体ないからよ! 勘違いしないでよね!』とか添えて。ああ、いいです。こんなシチュエーション、私ならイチコロですよー。ツンデレキャラで行きましょう。それから……」
「…………」
「あるいは、あなたの地を生かしてクーデレもいいですねぇ。魔術師という血なまぐさい立場を利用して、一度病んでみるのもいいかもです。まあ、最終的にはデレるんですが。ここらで神殺しと親密な関係を築いておけば、将来は安泰ですよー。あ、もう眼鏡外してルリルリみたいなキャラで行きましょうか……」
ついて行けず、むしろ呆れ返る和臣など眼中にない様子で、東は嬉々として語り続ける。
感情表現のない十華でさえ、瞼がいつもより下りていた。だが眠たそうというよりも、冷静に獲物を狙う肉食獣のような目つきだ。
これは不穏かつ不毛だ、と判断した和臣はその場を離れることにした。
「十華、行こうか……」
「はい」
十華に耳打ちすると、即座に同意が返ってきた。彼女は表情に出ないだけで、意外に感情豊かなのかもしれない。
そそくさと二人が離脱した後も気付くことなく、東は道端の地蔵にツンデレの何たるかを語り続けていた。
結局のところ何をしにきたのかが不明な魔術師を放置して、和臣は帰り道の途中にある大型書店に立ち寄った。
この本屋周辺は、和臣が住む新神市の繁華街のようなもので、神社のある自宅近くに比べれば雲泥の差ほどに賑わっている。ちなみに、【極東機関】の支部があるビルもこの近くだ。
参考書……という真面目な柄でもない。適当に漫画雑誌を手に取って立ち読みする和臣の横には、やはり十華が控えている。
何だろう。立ち読みに耽る男子高校生と、その斜め後ろで微動だにせずジッと立ち尽くす女生徒。心なしか周りの目が無遠慮に刺さってくるような……。
正直、周囲の視線が気になって居心地が悪いことこの上ない。
「……なあ、十華?」
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