炎天下、西よりの来訪者

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「何で、しょうか?」 「別にそこでジッとしてなくても……俺しばらくここにいるし、自分の好きなもの見てきていいんだぞ? 終わったら呼びに行くからさ」 「……いえ、ここで、待ちます」  和臣が動くまで、十華も動く気はなさそうだ。和臣は嘆息する。  仕方ない。どうせ時間潰しに寄っただけなのだ。目的があって来たわけではないのだし、十華もつまらないだろう。 「前言撤回。俺の用は済んだし、もう行こうか」 「いいの、ですか?」 「悪い理由がない。……それより。もういい時間だし、飯でも食っていかないか?」 「……おまかせ、します」  少女の返事に「了解」と頷いて書店を出る。屋内は冷房が効いて快適だったが、太陽の下に出ると途端に暑さがよみがえってうんざりする。  厚い暗雲であの太陽を隠せたら……ふとそんなことを考えた自分に無性に嫌気が差した。なんてこと考えるんだ、俺は!  やろうと思えば出来そうな気がする。実現の可能性があるだけに、そういうことは考えないようにしていたのに。  十華は、自己嫌悪に悶える少年を観察するような目で見つめていた。  そんなことには気付くことなく、教科書も入っていない鞄の重みに肩を落としてとぼとぼと歩く和臣は、前方に珍しい光景を見つけた。  女の子だった。小学生くらいの小柄な少女。それが道行く人に積極的に話しかけて、しかしほとんどが困ったような表情で去っていく。  その理由はまだ離れている和臣にも解った。人々は子供のわがままに困惑しているのではない。ヒントは少女の外見にある。  特徴的なのは、腰を超えるほどに長い真っ赤な髪の毛だ。燃えるような赤毛。染めたものではなく、生来のものだろう。
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