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「だ?」
「──誰がお嬢ちゃんかですーっ!!」
その瞬間、和臣の脳裏に二つの熟語が閃いて消えた。
青天の霹靂。吃驚仰天。
どちらも現状を説明する上で、もっとも適切な言葉だと思う。
真夏の晴れ渡った空に雷鳴が轟いたかと思うと、気付けば和臣は宙を飛んでいた。目の前に広がった空が少し近くなって、それから背中にとんでもない衝撃がぶつかる。
遠ざかった青空と一緒に、意識まで遠ざかっていくようだ。
日本語、話せたのか……。
顎にバットの一撃を食らったような痛みと、同時にやってくる感覚の麻痺を感じながら、和臣は気を失った。
──同日。午前九時頃。東京国際空港ターミナル内──
国際線の飛行機が到着し、搭乗口からは数人の日本人を含めた大勢の外国人がぞろぞろと出てくる。
その人の波の中に、ことさら目立つ金髪の青年がいた。
いや、まだ少年と呼ぶべきか。凛々しく知的な顔立ちではあるが、好奇心に溢れる子供めいた溌剌さも滲み出ている。
アッシュブロンド、プラチナブロンド、ストロベリーブロンド。
色合いの異なる金髪を持つ多くの外人が居合わせていても、少年の髪は黄金のように際立って輝かんばかりだ。まさに、ゴールデンブロンド。
だが、空港内の人々──スーツ姿のビジネスマンや観光客、ツアーの団体、あるいは空港関係者など、国籍問わずの大勢──の目を引くのは、その見事なまでの金髪ではない。
その少し下、歩く度に小さく揺れる前髪の奥に張り付いた黒。誰の目にも明らかな異常性。
痛みを押し隠し、醜い痕を覆い尽くす黒い眼帯。それも中世の海賊が身に付けていたような代物だ。
一歩間違えれば滑稽なコスプレ紛いにしかならないそれが、金髪の少年の左目を覆っているのだ。
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