炎天下、西よりの来訪者

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 そして、年季の入った木のテーブル上に軽食、と一般に呼ばれる料理をアメリカン盛りに満載してニコニコと頬張る赤い少女。  そう。小一時間ほど前、繁華街で英語で日本人達に訴え、手を差し伸べた和臣を見事なアッパーカットで殴り倒した外国人少女である。  炎の妖精を思わせる少女の名はローラ・エーラル。名も体も、洋装であるとはいえ日本の古喫茶店には似つかわしくない。 「それにしても、よく食うよなぁ……。体はち」 「死ぬですか?」  銀色の閃光が走った。  単純に思ったままを口にしようとした和臣の喉元に、いつの間にかナイフが突きつけられていた。一対であるフォークの方は、皿の上のムニエルに深々と突き刺さっている。  十華も動いていた。和臣の護衛という名目の少女は、和臣に向けられた凶器を持つローラの手を掴み、同時に只ならぬ気配を高めていた。  ほんの一瞬。和臣には認識すらできなかった刹那の間に一変した状況。和臣は目を白黒させるほかなく、笑顔と無表情、対極的な少女達は目に見えぬ火花を散らしていた。  しかし、何ということだろう。十華は魔術師、それも護衛を想定した対人戦闘に長けた肉体戦術のエキスパート。と東に聞いた。  和臣は、実際にその戦いぶりを間近で目にしたこともある。それほどの技量を持つ十華と、目の前の少女は同等の素早さを発揮したのだ。  一応はスポーツマンとして体を鍛えている男子高校生を宙に浮かせるほどの打力も備え、躊躇や予備動作もなく人に刃物を突きつけた外国人に、和臣は肝を冷やす。  その筋の専門家である十華が反応するまでの殺気を放つとは。ローラの殺意は……紛れもない本物だ。  まさか、そういう危険な方面の方? その疑問が喉まで上がって来る前に、和臣は別の言葉を口にした。 「ち────ゃんと健康そうだから、たくさん食べても不思議はないな!」  謝罪を含有した和臣の言葉に、ローラはようやくナイフを下ろした。フォークが突き刺したムニエルを器用に切り分けて、何事もなかったように食事を再開する。ホッと一息。 「………」  十華もまた、無言の内に構えを解く。しかしその怜悧な刃物のような眼差しは、先程よりも鋭くローラを見据えていた。
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