炎天下、西よりの来訪者

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「こんないたいけなレディから金を巻き上げるつもりですか? 鬼畜です! それに私は日本の通貨を持ってません!」  威張るなよ。そんな言葉は辛うじて呑みこむ。  ローラはイギリスから日本に観光目的に来たそうだ。それがこの街に入ってから家族とはぐれてしまったらしい。そこで、和臣はあることを提案したのだ。 「それで本当の本題だけど、君の親がどこにいるとか心当たりはある?」 「いえ、探しているのは兄です。……あの馬鹿野郎は妹を放り出して好き勝手歩き回りやがるですから」 「困った兄さんだな……」  こんなに小さな子供を見知らぬ土地で放っておくとは。しかも、これが初めてではないらしい。  だが、この町にいることは確かなのだ。それに新神市は目立った観光地でもないので、訪れる外国人だって多くはない。精力的に探せば見つかるはずだ。 「じゃあ、早速探しに行こうか。──十華はどうする? 無理に付き合わなくたっていいんだぞ」  清算を済ませるべく立ち上がりながら、和臣は隣でずっと黙ったままの十華に声をかける。これからやることは和臣が好きでやることだ。わざわざ付き合わせることもない。  予想はついていた。十華は何を考えているのか分からない表情で「ついて、行きます」と答えたのだった。 ──日本。福岡県太宰府市──  福岡県中部に位置し、かつて九州地区を統治する地方行政機関・太宰府が置かれたことによって栄えた地である。  特に北九州は国家防衛の重要拠点とされた。七世紀後半頃に設置された大宰府は、外交と防衛を主任務として行政司法を所管し、与えられた大権から『遠の朝廷』とも称された程だ。  朝廷より左遷された菅原道真が生涯を終えた地であり、彼を祭神として祀る太宰府天満宮は京都の北野天満宮とともに全国天満宮の総本社とされている。    菅公の霊廟として厚く信仰される太宰府天満宮の程近く、茶屋や土産物屋が並ぶ表参道から脇道に入ると、表通りの賑わいを離れた場所に風情な佇まいの大きな屋敷がある。  日本呪術界の総本山、四月朔日ら【四皇家】に名を連ねる名家、譽(ほまれ)家の本邸であった。
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