一つの章、黄金の夜明け

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「やぁ、エーラル! 奇遇だな、こんなところで遇うなんて。これも神のお導きかな?」 「生神女就寝祭を記憶する大聖堂を松明よろしく燃やしておいて、どの口がそんなことを言うか」  青年の挨拶に、少女は怒りを必死に治めようと努めて文句を絞り出す。  その頬がひくついているのを、紫眼の青年は見逃さなかった。 「悪かったって。オレは穏便に事を進めようとしたんだよ。けど奴らの抵抗が激しくてさ」  常と変わらない調子で誤魔化そうとしたのだが、無理のようなので弁明に切り替えたのだ。  少女は無言で続きを促してきた。ので少しでも罪を軽くするために続ける。 「百や二百なら問題なく片づけられたんだよ。けど野郎ども、さすがは吸血鬼信仰派の結社だよなァ。まさか、あんな隠し玉があったとは……」  感嘆の響きさえ匂わせる発言。青年が指差したのは、巨大な炎の塊。  古今東西、火とは神聖なる証だ。  古代ギリシア人はプロメテウスが神々から盗み出したものとして火を神聖視していた。  火は闇を払い、善を照らす象徴、光の源だ。  燃料を消費して燃え、尽きれば消える火は生命と死の象徴でもある。  また、不浄なものを焼き尽くして浄化するという属性を持つ。  拝火。そんな言葉の下に、火そのものを崇拝する宗教も世界各地で見られた。 「ゾンビどもは火にくべてやったよ。おかげで、いい火加減だろ?」  火のもつ神聖なる力を活用しながら、信仰そのものをなめる青年の態度に、少女は問題児を抱えた担任教師のように頭を抱えた。  その例えは当たらずとも遠からず。  二人の関係性は、似たようなものである。
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