炎天下、西よりの来訪者

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 暦は、季節をすっかり夏といえる七月を数える。  深刻と言われる地球温暖化によってか、例年にも増して今年の日本列島は猛暑を記録していた。  今日も、そんな茹だるような暑さによって嫌な目覚めを迎えるものだと思っていたのだが。  古我屋和臣が目覚めた世界は、俗世間の猥雑さや地上の異常気象などとはまったく無縁な空間だった。  こんな体験、以前にもなかったか? 「いや、夢だ夢。昨日は紫子が暑がって大変だったからな。きっと疲れてるに違いない……」  地平線の彼方まで白一色の世界。こうなると、どこからが天と地の境界なのかも見定まらない。  そんな空間で、和臣は開いたばかりの瞼を閉ざした。  心地よい闇に眠気が再来して、和臣は再び眠りの淵に沈みゆく。  これを阻止したのは、問答無用で放たれた真っ赤な火の球だった。 「熱ッッ! 人に放火するなんて、どういう了見だよ!?」 『君こそ、天使の長たるこの私に対してその態度、一体どういう了見だね?』  差し迫った灼熱に跳び起きた和臣の文句に、尊大な発言で迎えうったのは羽の生えた美青年。  天使ミカエルは、相変わらずの偉そうな態度で人間を見下ろしていた。 『地を這いずる程度の存在が、私に意見するとは……身の程をわきまえたまえ』  むしろ見下していた。何故こいつはこうなのだろう。  仮にも聖書に登場し、神の剣としてルシファーら堕天使の軍団と戦った雄姿は見る影もない。 「それで、今回は何の用だよ?」
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