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現今我が国の思想上・社会上の諸弊は、明治以降余りにも急激に多種多様な欧米の文物・制度・学術を輸入したために、動もすれば、本を忘れて末に趨り、厳正な批判を欠き、徹底した醇化をなし得なかった結果である。
抑々(そもそも)我が国に輸入せられた西洋思想は、主として十八世紀以来の啓蒙思想であり、或いはその延長としての思想である。これらの思想の根柢をなす世界観・人生観は、歴史的考察を欠いた合理主義であり、実証主義であり、一面に於て個人に至高の価値を認め、個人の自由と平等を主張すると共に、他面に於て国家や民族を超越した抽象的な世界性を尊重するものである。従ってそこには歴史的全体より孤立して、抽象化せられた個々独立の人間とその集合とが重視せられる。かかる世界観・人生観を基とする政治学説・社会学説・道徳学説・教育学説等が、一方に於て我が国の諸種の改革に貢献すると共に、他方に於て深く広くその影響を我が国本来の思想・文化に与えた。
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