諸言

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我が国の啓蒙運動に於ては、先ずフランス・オランダ・スペイン啓蒙期の政治哲学たる自由民権思想を始め、イギリス・アメリカの議会政治思想や実利主義・功利主義、ドイツの国権思想等が輸入せられ、固陋な慣習や制度の改発にその力を発揮した。かかる運動は、文明開化の名の下に広く時代の風潮をなし、政治・経済・思想・風習等を動かし、所謂欧化主義時代を現出した。然るにこれに対して伝統復帰の運動が起った。それは国粋保存の名によって行われたもので、澎湃たる西洋文化の輸入の潮流に抗した国民的自覚の現れであった。蓋し極端な欧化は、我が国の伝統を傷つけ、歴史の内面を流れる国民的精神を萎靡せしめる惧れがあったからである。
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