序章

2/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
「…泣くな」 かすれた眼前に見えるキミの泣き顔 薄れゆく意識の中で ゆっくりと手を伸ばし 頬に伝う涙を拭う 涙は拭う傍らにまた滝を作っていく その手を包みこんだキミの手は血で濡れていた もう痛みすら感じられない 体中の全てがゆっくりと閉じていくのがわかる いつまで続くかわからない意識のなかで キミの姿を瞳に焼きつける もうそれしかできなかった 唇を震わせながらキミは言った 「信じてるから…また巡りあえるって」 「め…ぐりあ…える?」 自分のそれが言葉になっていたのかはわからないが キミは言葉を続けた 「私たちは魂が共鳴するのよ 私たちが出逢った時のように 例え現世でこの身が朽ち果てても 魂が廻る限り 私たちは再びめぐり逢える」 『魂の輪廻』本当にそんなことが起こりうるのかはわからないが キミとまた出逢える それはなんと幸福なことだろうか しかしこの滅びゆく我が身が 願うは只一つ 渇ききった心を癒やしてくれたキミへ 愛を知らずに生きていた自分に 愛を教えてくれたキミへ この身を投げ打ってでも 守りたかった 愛しきキミへの願いを伝えるために 最後の力で唇を動かした 「生きろ…」 キミは少し驚いた顔をして そして泣き顔のまま笑って頷いた それだけで十分だった その瞬間体中の全てが鉛のように重くなる 瞳のなかのキミが白いモヤのなかに消えていく キミの手から滑り落ちた腕が地面に叩きつけられた 全てが閉じていくなか キミの声が遠くに聞こえた 「あなたも信じていて いつかまた出逢えると きっと私が見つけ出すから だから信じていて」 叫びにも近いキミの願いを 遠く遠くに聞きながら …俺は死んだ…
/63ページ

最初のコメントを投稿しよう!