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第一章
その当時、私はしがない旅行者の一人に過ぎなかった。
ただ何の気なしに立ち寄ったその地で、私は彼と出会ったのだった。
名を、ヌル=リザーバー・クオンタム。
あまりに長く、そして呼び辛いので私は彼をクオンと呼んでいた。
ヨーロッパに属する国で、そこは今の季節柄夏に近い気温だった。
強烈な日差しが私を迎え、止めようもなく汗が流れ落ちる。
この当時、私はある目的の為に世界各地を旅しており、この地もその一つだ。
――私は海外旅行というものに慣れていなかった。
そのおかげで、現地の若者に絶好のカモと見られてしまう事が多々ある。
今回もそれだった。
今まさにナイフを持った三人の若者に囲まれ、有り金と荷物を要求されている。
念の為にと、護身用にM93Rという自動拳銃は持っているが、果たしてこれを使うべきか――否か……
実を言うと、あまり目立つような事はしたくないのである。
そのある目的の為に。
「ひいては貰えませんかね?
私、あまり大事にしたくないんですよ」
「有り金と荷物全部置いて行ってくれたら、皆幸せに済むぜ。
おら、さっさと出せよ」
「勘弁して下さいよ」
泣きたい。
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