死神と勇者と

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「メタル切り!」  薙いだ剣が金属化した体を持つ魔物を豆腐を切るように安々と切り裂く。切られた残骸は勢いに任せて吹き飛び壁に激突。付着した肉片から粘りけのある粘液の混じった糸を伸ばして地面へと落ちる。その一部始終を喜々として見届ける者がいた。勇者だ。 「どこにもいねえと思ったらこーんな所に居やがった! ここはメタスラの楽園だ!」 『ピイッ!』  哀れにも標的にされてしまった小動物は勇者一行から逃げ惑う事しか出来ない。だが、それすらも……。 「ちい、もう逃げやがった。もう一回頼む!」 「仕方無いわね……」  勇者の呼び声に応じて耳の奥に残るような、やけに勘高い声が、呆れたとばかりに響く。その主が手に持つ物、宝具“時の砂”を軽く、くるん、と回転させると……途端に景色が湾曲し、時空間が捻れ崩壊現象が発生する。  目をつむりもう一度開けると、目の前には先程逃げた筈のメタルスライムが二匹、その様子からは伺えないが困惑した表情で勇者を見上げていた。怯えてしまっているのか、動けない様子だ。 「お、戻った戻った。サンキュー」  時間の巻き戻し、それに成功した事を実感すると、勇者は剣に舌を這わせて興奮を露にする。顔に貼り付けたような笑みを浮かべ、勇者は手にしていた武具に力を込める。  そのまま見下ろした力無き弱者に対して――。
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