..Chapter001,

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   公立高校前のバス停に、珍しく人影があった。真っ黒い学生服をだらしなく着た男の人は、欠伸を噛み殺しながらベンチから立ち上がり、地べたに置いた重そうな荷物を持ち上げ、そして彼のために開いたドアをくぐった。乗客はわたしの姿を見つけると、他の乗客はいないのに彼はわたしの方へずんずん歩いてくる。それから、わたしの隣に座った。心臓が、とくんとくんと騒ぎ始めた。警戒はしてたけど、恐怖ではなかった。いざとなったら運転手さんが助けてくれるだろう。やけに近い彼をあまり見ないように、視線を大袈裟に外に飛ばした。通りがかった家の前の花壇で、コスモスが綺麗に咲いている。 「……あの」  声をかけられて、わたしは振り返った。 「きみ、さ、仁科さんだよね。仁科結ちゃん。黒女の、三年生」  戸惑いながらもわたしは不用心に頷いた。  
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