..Chapter001,

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   わたしは、頷いた。それから勇気を出して、机の上に投げ出されていた彼の手をそっと握りしめてみた。山原くんはぴくんと動いて、それからとびっきりの笑顔でこう言った。「ありがとう、大好き」と。  彰くんは夕食も一緒にどうかと誘ってくれたけど、お母さんに連絡していないことを思い出してそれは断った。それから連絡先を交換して、一緒にバスに乗る。わたしの知らない、若い運転手さんと目があった。いつも眺めていた景色がわからないくらい真っ暗で、乗客もちらほらと居た。はじめてだ。わたしの心は、踊っていた。隣で彰くんはなにかカラフルな画面を見ながら、携帯を操作している。ほんのすこし眠たくなって、わたしは、幸せな気分でそっと目を閉じた。家に着くまでには、もう少し時間があるのだ。
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