..Chapter002,

14/16
前へ
/68ページ
次へ
   安西さんとも、こういうことをしていたんだろうか。そんなことがふっと脳裏をよぎった途端、わたしの中の何かが急激に冷えていくのを感じた。わたしの心を貫きながら彼が紡ぎ続ける愛の言葉が、なんだか急に陳腐なものに感じられた。涙が、心が、なにかが、急激に乾燥していく。ふと目を開けた。もう涙は込み上げてこない。とろんとした目の彼と目が合った。わたしはにっこり笑って見せた。彼がふと視線を逸らす。わたしはもう一度目を閉じた。こうしてわたし、曖昧にされたままのラインを必死に飛び越えた。  
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加