..Chapter000,

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   そんな健気な六歳児を思い出しては、手のかからないいい子だったと、穏やかな笑みを浮かべたお母さんは言う。そして決まって、今ももちろんいい子よ、と付け足す。  与えられるものが、手に入るものが欲しいものだったら、どんなによかっただろう。 「結は、黒女に行きなさい。そうすればきっと、幸せになれるよ」 「しあわせ? どんなの?」 「あそこへ入れば、高校へは受験をパスしてエスカレーター式に入ることができるよ。有名大への進学率が97パーセントだ。父さんや母さんのような勝ち組に、君もなるんだ」 「かちぐみ?」 「そう。結が欲しいものは全部父さんが買ってあげただろう? 金で手に入らないものなんて、この世の中にはないんだよ。人生に成功すれば、必ず幸せになれる。いいかい、結。必ず黒女に入るんだ――」  お父さんの言うことは違うと思った。けれど、わたしは頷いた。  
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