..Chapter005,

4/7
前へ
/68ページ
次へ
   そこまでしか、覚えてない。  気付けばわたしは自分の部屋で寝てて、ベッドサイドには心配そうな顔をしたお母さんが付き添っていた。  聞けば、わたしは突然貧血を起こして倒れたらしい。中等部からの“お友達”に保健室まで運ばれたって。連絡を受けたお母さんは慌てて車を出し、早朝から深夜まで身を粉にして働いているお父さんに連絡をしたようだった。保健室から車まで、それから車からここまでわたしを運んだのは、お父さんだって。 「……結ちゃん、お医者様に診ていただきましょう。すぐ来て戴けるように連絡を……」 「大丈夫、大丈夫だから。ごめんなさい。大袈裟にしてしまってごめんなさい」 「何言ってるのよ……冬だって。結局元気になったけれど、やっぱり……」 「大丈夫。ほんとに……へいきだから」  心の中で、何度も何度も謝った。乾いた笑顔で、ごめんなさいって。  綻びを、見せてしまった。あんな風に哀しそうなお母さん、初めて見た。それが居た堪れなくて、わたしは顔を伏せた。それでも足りなくぎゅっと目を閉じたけれど、頭の中がぐるぐるざわざわして、泣きそうになった。今までお父さんたちの言うとおりにしてきたわたしだから、どうしていいかわからなかった。でも、でもね。大丈夫、平気って言ったって、わたし、もうあそこへは行けないよ。  
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加