..Chapter005,

5/7
前へ
/68ページ
次へ
  「……学校で、何か嫌なことでもあった?」  それを聞かれるのが怖かった。けど、そんな風にお母さんが聞いたのは、至極当然の流れだったかもしれない、  そんなことないよ。そう言って微笑んだら、何もなかったことになる。体調を少し崩しただけだよ、って、またお母さんたちの敷いたレールの上に戻ることになる。  いやだ。  そう思ったかどうかは、わたしにはわからなかった。けれど、「へいきだよ」「なんでもないよ」そんな風なことを言おうとしたのに、わたしの唇はそれを許さなかった。認めることは、背くことだ。お父さんと、お母さんに。今まで絶対にしてこなかったことだ。わたしの15年間を、否定することになってしまう。 「結ちゃん。何かあったなら、辛いなら言ってもいいんだよ」  お母さんのその一言に、心の中が軽くなるような気がして、でも、うまれた隙間に、罪悪感みたいのがどろどろ流れ込んできて、どんな顔をすればいいかわからなくなる。  お母さんは、もしかしたら何かを。全てを知っていたのかもしれない、って。そう思うのは、わたしがもう少し大人になってからの話だ。  
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加