..Chapter005,

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   どう答えるのが正解かわからなくて、わたしは黙り込んだままでいた。安西さんの不気味な笑いが脳裏によぎって、胃液が一気に込み上げ来るような気がしたけれど、ぐっとこらえる。ぜんぶ、全部わたしが悪い。  出会わなければよかった。拒めば良かった。彼のことを深く知らなければよかった。好きになんか、ならなければよかった。  楽しかった、幸せだった頃のわたしまで否定した。そうでないと、辛かったんだ。身の振り方を間違えた。そのペナルティを、受けているだけだ。 「……ごめんなさい」  不意に、わたしの口からこぼれたのはそんな言葉だった。何に対してのごめんなさいかはわからなかったけれど、お母さんは、泣いていた。  15年間止まり方もわからないままむずむずしながら歩いてたのに、立ち止まるのはこんなにも簡単だった。もっとも、そこまでわたしは追い詰められてしまっていたんだけど……そこまでは、わたしの頭はまわらない。ごめんなさい。それ以上、何を言うべきかわからなかったけど、お母さんは何も言わずに、毛布ごとわたしを抱きしめていた。  
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