疑心迷宮

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 Aランチを頬張るシンジとは対照的に、向かいのタダシはほとんど食事に箸をつけていなかった。 「どうした、腹の調子でも悪いのか?」  シンジの声に一瞬遅れて反応すると、タダシはぽつりと呟いた。 「実は、親が死んだんだ」 「なんだって」  聞けば、タダシの両親は一週間前に交通事故で亡くなったらしい。二人で旅行に行くと言って家を出て、高速道路で逆走する車と正面衝突。即死だった。けれどもタダシはもともと両親と不仲であったため、三日三晩悲しみに暮れたというわけでもない。では彼の頭を悩ませているものはなにか。それは残された借金だった。 「いくらぐらいなんだ」 「……七百万」 「マジかよ」  シンジは思わず箸を置いた。友人としての心からの哀れみ。しかし実際は、見せかけだけの薄っぺらい同情である。そんな態度でタダシの顔をうかがっていると、突如すがりつくような視線に貫かれた。嫌な予感がした。 「なあ。金、貸してくれないか」  やはりというべきか、予感は当たった。
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