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金曜日の休み時間、夏実の席で香絵と話していると、健太がベランダをつたってやってきた。
「なぁ夏実、世界史の教科書貸してよ」
「えー持ってないよ。うちのクラス今日無いもん」
「私、持ってるよ」
「ホント? 山内さん貸してくれる?」
「うん……ちょっと待ってて」
香絵が顔を赤らめながら、後ろのロッカーへと向かう。
「さすがは山内さん」
健太がイジワルな視線を夏実に向ける。
「忘れる方がバカなんでしょ!」
「ヘーい、へい。ーーあぁ夏実、今日の放課後は大丈夫だろ?」
「え、あ……うん」
「じゃあ、いつもの所で待ってるから」
夏実が黙って頷いた時、香絵が世界史の教科書を持って戻ってきた。
「はい」
「ホント助かる。ありがとう」
香絵は赤くなったまま首を横に振る。
「じゃな」
去っていく健太を、恋する眼差しで見送る香絵を横目にみながら、夏実の胸に小さな罪悪感が浮かんだ。
「香絵……」
「やっぱり塚原君ってかっこいいね」
「――そお?」
その時始業チャイムが鳴り担当教師が入ってくると、香絵も席に戻っていった。
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