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また小さく『クスクス……』と笑い声が聞こえてくる。夏実は呆然と立ち尽くしながら涙を必死にこらえた。
『泣いたらダメだ――』
夏実は心でそう呟いた。そして、教室の隅々を見回したが、机と椅子は見当たらない。
教室内の生徒達を見回すと、好奇な目で見る者、薄笑いを浮かべる者、
コソコソと話しチラッとこちらを見る者……
その中で、ベランダに目を向ける生徒が居て、夏実が窓からベランダをみると、置き去りにされた机と椅子を見つけた。
ベランダに出て、一人で机を運び、椅子を運び入れている時、チャイムが鳴って担任の若い女教師、安田が入ってきた。
「おはよう――あら、三田さん? 何してるの?」
その時、後ろのドアから真が入ってきた。答えずに椅子を席まで運んで座る夏実を、安田は怪訝そうな顔で見ながらも、
「矢口君、遅刻」
と真に言って出欠簿を開いた。
無言で席に背もたれた真は、チラリと夏実を見る――夏実は何事もなかったように淡々と席に座っていた。
『泣けばいいのに』
典子は、夏実を睨みつけていた。
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