唯一の憂鬱

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「進、どうした?行かないのか?」 不意に聴こえてきた澄んだ声により、我に帰った。     ムコウ アオイ 声の主は向日葵、僕の幼なじみだ。 容姿は、幼なじみという贔屓目を抜いても、整っている方だと思う。 馴れた様子で椅子に付属する車輪を回して近付いてきた。 葵は車椅子に乗っていた。 彼女は防御魔法を得意としている。 だが、それは才能ではなく、努力の末の結果であった。 人より機動力に劣っているのを補うため── つまり、回避を捨てた防御のスタイルを取ったからだ。 どうやら物思いに耽り過ぎたらしく、教室内には既に二人だけしか残っていなかった。 僕は葵の車椅子を押して教室を後にした。
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