プロローグ

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「今日こそ父様に……」    窓から日が昇り始めた空を見ながら、少女――ティアは呟いた。  父は王国でトップの成績を誇る大商会の現会長だ。そのせいでティアはずっと商会の会長の娘という肩書きの中で生きてきた。いつも周りの期待を背負って、いつも父の跡を追うように周りからプレッシャーを掛けられた。  そんな、敷かれたレールの上を歩くだけ日々が嫌で、自分を教育係に任せきりにしている父を八つ当たりのように嫌った。いや、嫌ったつもりだった。めったに帰って来れない父を相手に嫌いになったつもりだけでは何も変わらない。  そして、それはティアの望む事じゃない。  商会の跡を継ぐのは嫌じゃない。そのために、ティアは日々勉強してきた。ただ、普通の少女になれたらと、そう強く思う。  今夜、父が久しぶりに家に帰ってくる。なのに、教育係が今日もうるさい。  今日はサボろう。  そして、一人で街を歩いてみよう。少しの間でも、街で自由に遊ぶ普通の女の子の様に。  なるべく質素で動きやすい服を身につけ、父に貰った髪飾りを付ける。リュックを背負ってから窓に足を掛けた。  帰ってきたら、父に怒られるだろう。でも、一度ぐらいは大丈夫。  今まで少し良い子を演じすぎた。だから、父は私に期待を掛けるだけ。これからは少し悪い子になろう。  小さな冒険の第一歩を、ティアは踏み出す。  頬に風があたった。  秋に入ったばかりなのに、やけに冷たく感じた。  ☆   ☆   ☆
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