島崎 修吾

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「うぁを!舞、なんで着替えてる時に入ってくんだよ!」 パンツ一丁の東が、慌ててズボンを履いた。 舞は顔を赤らめ、近くにあった軟球を投げつけた。 東がそれを避けると軟球は窓の木枠に当たり、窓が軟球の勢いで開け放たれる。 軟球はそのまま外に飛び出し、家の前をジョギングしていたおじさんに当たった。 朝から、ご近所さんに迷惑な事である。 「な、なな、何っ!?」 東は心臓をバクバクさせながらも、舞の話を聞こうとした。 が、当の舞はおでこに人差し指を押し当て、「あれ~?なんだっけな~?」と難しい顔をしていた。 しばらく考えた末に、舞はこう言った。 「ま。なんでもいいや。兄貴、早く準備しろよ~」 そう言い残し、舞は自分の部屋へと消えていく。 東は呆然と立ち尽くしたまま、「なんだよ…」とつぶやいた。 ベルトの締めていないズボンが、スルリと脱げ落ちた。        * それからそれから、昼です。 球場内です。 三塁側ベンチです。 これから試合が始まろうとしている時に、東はなぜか一塁側ベンチの入口近くにユニホーム姿でいた。 隣には倉橋もいる。 そして、島崎と立花の姿も。 「お前、こんなとこいていいのか?」 東が立花を見て、不思議そうな顔をした。 というのも、立花は別にマネージャーというわけではないからだ。 関係者でもない人間が、こんなところにいていいのか、という話だ。 しかし、立花は平然と「別にいいんじゃ?」というように、島崎の横に立っている。 そんな風に立っていられると、まあそんなもんか、という気になってしまうので不思議だ。 先程、先攻後攻を決める時に大荷第一の監督を見たが、野球を知っているような様子ではなかった。 全て生徒に任せている感じ。 環境はこちらと似たような感じである。 わりと自由なようだ。 だから、立花がこんなところにいても、誰も何も言わないのかもしれない。 だが、野球を知らないような人間が監督(という名の責任者だろう)でここまで来たという事は、実力はかなりのものなのだろう。 油断はできない。 「今日は、俺がキャッチやるから」 島崎が笑った。 東はキャッチャーの島崎と試合をする事を望んでいたが、いざそう聞かされると少し焦った。
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