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「タメだよ」
東が答えると、立花は不安が無くなったのか再び話し始めた。
「だって。だから、タメ口でいいよ」
「いいんですか?あ、いや、いいの?」
「うん。いいよ」
なんだか奇妙な会話に、男性陣はポリポリと頭を掻くばかりだった。
倉橋が「俺、先に行くわ」と、テクテク歩いてその場を去っていく。
「ところでさ……」
立花が何かを言いかけた。
一拍置いて、続ける。
「2人は付き合ってんの?」
春の目が、点になった。
立花は春よりも東をからかっているのか、それともからかっているのか、はたまたからかっているのか、不気味な笑顔で聞いた。
いや、からかっているのだけども。
東は目が点の春の腕を掴むと、そのままスタコラサッサとその場から走り去った。
それはもう、マッハの勢いで。
春はフワフワ~と、風になびきながら東に引っ張られていた。
2人が走り去った後に残された立花は「誠の好きな人、春ちゃんだぁ!」と、勝手な予想を立てて喜んでいた。
その予想、正解だ。
島崎は「誠をあまりからかってやるなよ」と、立花の肩をポンッと叩いた。
*
スタコラスタコラ。
いつの間にか、先を歩いていた倉橋を抜かしていた。
春は依然、腕を掴まれて風になびいている。
点になった目が、元に戻らないでいた。
ロッカールームに着いた頃には、東は試合前だというのに汗びっしょりになっていた。
春は目が点のまま、舞の座っている長イスに腰を掛ける。
「小波先輩、どうしたんですか?」
舞の問い掛けにも、春は目を点にしたままで反応は無い。
東はというと、「打倒・立花ぁぁあぁあ!!」という意味不明の叫び声を上げていた。
戦う相手が違うと思う。
とりあえず、皆は東を無視してベンチへと向かい始めた。
東もスタコラスタコラと、後ろに着いていく。
舞も春の手を引きながら、その後ろを着いていった。
誰もいなくなったロッカールーム。
歩いてきた倉橋が見たのは、それだった。
倉橋は置いて行かれたとすぐに理解し、ベンチに向かったのだった。
スタコラスタコラ。
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