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「よろしく」
島崎に聞こえるか聞こえないかの声でそう言われた江原は、思わず島崎の方を見た。
パシィィィンッ!
「トライッ!」
「へっ!?」
審判の突然のコール。
江原はキョトンとした表情をした。
何が起こったのか分からないまま、ストライクをひとつ。
江原が戸惑っていると、島崎がクスッと笑った。
「駄目だって。バット構えたら、ボールから目を離しちゃ」
やられた。
言われてから気付いた。
「ほら。前を見て」
返球しながら、島崎が言った。
これが、東の親友なのだろうか。
これが、中学時代に東と組んでいた奴なのだろうか。
だとすると、凄く嫌な奴だ。
江原は鼻息を荒くすると、バットをしっかりと構えた。
今度はボールをしっかりと見る。
ピッチャーの迫は、左利きだ。
今まで左と試合した事の無い江原(だけではなく他の皆もだが)にとって、とても違和感があった。
迫は、ノーワインドアップのスリークォーターである。
ノーワインドアップとは、振りかぶらない事。
スリークォーターというのは投球フォームのひとつで、オーバースローとサイドスローの間くらいの投げ方だと思ってくれればいい。
大抵のピッチャーはこのスリークォーターで、完璧なオーバースローで投げる投手は少ないという。
まあ、そんな事はどうでもいいのだが、とにかく左というのは厄介だった。
パシィィィンッ!
インハイへのストレート、ボール球だ。
しかし、1球目といい、2球目といい、ミットから良い音がする。
球はそれほど速くない。
まだ初回だが、多く見積もってもMAX130km/h前半くらいだろう。
キャッチの技術が高いからだろうか。
いい音を出し、当たったら痛そうに聞こえる。
だが、怯んでいるわけにもいかない。
今度は外角低めから外に外れるシュートだ。
江原はこれにバットを出し、一塁側へのファール。
カウントは2―1で、4球目は外角の高めに外れた所へストレート。
思わずバットが動きそうになったが、これは振らなかった。
島崎も返球しながら考える。
江原を打ち取るには…。
おそらくそんな事を考えているのだろうが、どうくるかは表情からはまったく予想ができなかった。
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