島崎 修吾

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まさか、右打席でくるなんて…。 顔には出していないが、島崎もそう思って驚いているのだろう。 ピッチャーに向かって投げるボールに、わずかに動揺が見られる。 ボールが少し高めに投げられていた。 それでもすぐに冷静さを取り戻し、新谷の攻略法を考える。 何球か投げて探ってみるも、特に苦手なコースも見当たらなかった。 しかし、そこは島崎。 上手くピッチャーをリードし、なんと新谷を三振に仕留めたのだった。 これには東たちも、新谷が右打席に立った時以上の驚きに駆られた。 「新谷が三振なんて、珍しいな」 攻守交代の為、グローブを取りに帰ってきた新谷に東が言った。 新谷は「うん…」と頷いて、グローブを着ける。 「悔しいけど、あのキャッチャーなかなかやるよ。投手自体は大した事ないのに、あのキャッチャーが投手の実力以上の力を引き出してる気がする」 「うん。凄いよ、修吾は」        * 《1回の裏、大荷第一高校の攻撃は、1番、センター、間野(マノ)。背番号、8》 名前が呼ばれた瞬間、大荷第一のブラスバンド部による応援歌が演奏されはじめた。 聴いた事のある曲。 ああそうか、あの歌手の歌だ。 東は1球目を投げる。 間野は外角低めへのカーブにバットを出し、セカンドゴロでアウト。 どうも、1回戦が終わった後から肩の調子が良くない。 やはり、無茶な投げ方は良くないという事だろう。 この調子でどこまでいけるのか。 2回戦の相手は大した事無かった。 この3回戦も、脅威になるのはおそらく島崎だけだ。 次の4回戦は…。 いや、今は今に集中しよう。 気を抜けば負ける。 一発勝負の高校野球で、先の事など考えてはいられない。 ロージンバッグを手に取り、2度、3度弾ませる。 ロージンバッグを地面に叩き付けると、東は振りかぶって2球目を投げた。
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