遠い日の記憶

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9番の鈴木も、ショートゴロだった。 1番に戻って間野の打席だが、それもピッチャーゴロだ。 結局、この3回まではお互いに良い当たりは出ていない。 というより、大荷第一に関しては内野すら越えていないのだ。 唯一内野を越えたのが、島崎のツーベースヒットだった。        * 《4回の表……》 この回の先頭バッター、2番の朽木が右打席に入った。 東は倉橋にサインを出し、ミットに向かって投げ込む。 朽木のバットが動いた。 高い金属音が鳴り響き、次の瞬間にはボールは一二塁間を転がり抜けていった。 ライトの清水が前に走って来て、打球を捕った。 一塁には既に、一塁ベースを走り抜けた朽木がいた。 この試合、2本目のヒットだ。 次は3番の進藤。 左打席に立ち、バントの構え。 逆らう事無く送らせた。 バントを処理して、ワンアウト。 さてどうしたものか、と東は足で土をならしながら考えた。 確実に5番の島崎には打順が回る。 とにかく、4番をしっかりと抑えなくては。 そう考えていると、東のボールを握る手に冷たいものが当たった。 「冷たっ…!?」 思わず、上を見上げる。 いつの間にか、曇り空になっていた。 他の選手も、上を見上げている。 東は思い出した。 そういえば朝、天気予報士が雨が降ると言っていた。 だが、まだこれくらいなら。 東は倉橋の方を向いて、確認するように頷いた。 倉橋も頷いて返し、座ってミットを構える。 4番の今村も打席に入って、バットでホームベースをトントン叩いた。 バットを構えて、東が投げるのを待っている。 東はセットポジションで構え、ボールをしっかり握って投げた。 今村はスライダーを見逃して、ワンストライク。 少し、雨が強くなった。 次に、ストレート。 今村はこれも見逃して、ストライク2つ目。 東は倉橋からの返球を受ける。 雨がまた強くなった。 最後にカーブを投げて、三球三振。 これでツーアウト。 ついに、本格的に土砂降りになってきた。        * 「雨、止まないね」 ベンチで春がぽつりと言った。 結局、雨がひどくなってきたので、試合は一時中断。 東たちはベンチに下がって、様子をうかがうしかなかった。
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