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「別に。ただ、雨の日だとボールが滑るんだよ。思った所に投げらんないから、投げててイライラする」
「そんな理由かよ」と、横から新谷の声が聞こえた。
だが、東にとっては深刻な問題らしい。
再び雨雲を睨み始めた。
「え、でも、投げる時には雨止んでるんじゃないの?」
「違うよ、春ちゃん。雨が弱くなって、審判のおっさんたちが“試合が出来る”って判断したら再開なんだ。再開しても、雨は降ってたりするよ」
「あ、そうなんだ」
「だから、雨止め~!って雨雲睨んでるの」
それを聞いた春は、東と並んで雨雲を睨み始めた。
「あいつら、なかなか面白い奴らだな」
安藤先生が、新谷の横でつぶやいた。
新谷も呆れ顔で2人を見ていた。
すると、舞が春に話しかけた。
「何してんですか、小波さん?」
「あ、舞ちゃん。あのね、雨雲を睨んでどっか行ってもらおう、って作戦」
「なるほど、新しいですね。時代の最先端を行ってますね。では失礼して……」
そうして舞も睨みだした。
それを見ていた安藤先生は、至って真面目な顔をする。
「あいつら、なかなか面白い奴らだな」
横にいる新谷は、ため息をついた。
やってられない、とベンチに浅く腰掛ける。
それを起に、他の皆もダラダラし始めた。
一時中断とはいえ、まだ試合中だ。
なのにこの態度とは、まったく桜見大というのはとんでもない学校である。
「雨、止まないね」
雨雲を睨んでいた春がぼそりと言った。
当たり前だろう。
睨んで止むなら、プロ野球に“雨天中止”なんてものは無い。
「向こうは本格的な作戦会議だね」
舞もぼそりとつぶやく。
東は「普通はああだよな」と笑った。
たしかに、大荷第一のベンチはキャプテンらしき人物が前に立ち(監督は野球を知らないので見ているだけ)、各々選手たちが意見を述べているように見える。
あれが当たり前の光景だろう。
でも、東は言う。
「ウチはウチ色」
「東君、さっきも言ってたねそれ。どういう意味?」
「ん?ウチはウチって事」
「なるほど」
そして春は、ジッ…と雨雲を睨み続けた。
が、さすがに首が疲れる。
春は目線を落とした。
その時、向こう側のベンチにいる島崎が目に入った。
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