火蓋

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犯識が、指定された場所である寂れた港に着いた時には、既に相手は埠頭に立っていた。 「挑戦者巣守が一人、巣守鍔芽」 「・・・てっきり来た瞬間不意打ちでも来るかと思ったんですけどね」 拍子抜けしたように頭を掻きつつ犯識は、埠頭に立つ男を見据える。 燕のように黒い糊の利いたスーツ、白いワイシャツ。サラリーマン風な服装には似合わない、赤毛のショートカットと鋭い目つき。 黄色いネクタイにあるピンには、鳥の胴体はなく二つの翼だけがあしらわれている。 「闇討ちなどという意地汚い乱破の所業、巣守がやると思うてか?」 「殺し名の人は、だいたい倫理感とか薄いから殺せるなら、闇討ち不意打ちなんでもござれだと思いますよ」 「ふん。青二才には矜持など分かるまい」 嘲笑する鍔芽の言葉に、犯識は目を剥く。 「・・・今、分からないって言いましたか?」 犯識の問いの意図が分からず、首を傾げる鍔芽。 「強者とせめぎあうが、巣守の矜持。何も持たぬ殺人鬼には分かるまいて」 「なるほど・・・じゃあ、考えましょうか」 犯識の雰囲気が、微妙に変わったのを機敏に感じた。
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