1、飢え渇きセンシティブ

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 その日は、俺の妹の誕生日だった。九月も半ばを過ぎ、月は程良く満ちていて、急ぎ足を照らし雨音を遠ざけてくれていた。  過ズ夏のふてくされた頬を思い出し、お詫びに買ったケーキを崩さないように気をつけながら、現在一年生をやらせていただいている母校、春日川高校の前門辺りを通りかかった時、 「なんだありゃ?」  思わず声が漏れていた。眼前には、校庭を埋め尽くすように生える岩、岩、岩。どれも縦長で巨大な岩で、置かれたというよりも盛り上がったようで、生えるという表現はなかなかに適切だと思う。  一見ばらばらで規則性がないようだが、よく見ると円形に並んだ岩が何重にも張り巡らされていて、どこだかの古代文明もどきみたく幻想的な雰囲気を醸し出していた。  足を止め、その光景にしばし目を奪われる。まさか新手の悪戯か? いや、それにしてはご苦労過ぎる。ならばなんだ。自然現象か? 有り得ない事もないが……それにしても、いや待て! 「人が倒れてるじゃねえか!」  別に声を上げるつもりも必要もなかったが、反射的に出てしまうのだから困る。しかし、これで近隣住民に気付いてもらえるのならもう少し声量を上げるべきだったな。  しかし、涼しげな風は抜けるばかりで、俺の声をどこかに運ぶわけでもなくただ吹いているのだった。
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