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 私は、直感的に、彼女が線路に飛び込むつもりだと思った。けど、何もできなかった。体が動かなかった。  結果的にはそれで良かった。飛び込まなかったから。  彼女は、黄色い線を踏み越えてピタリと止まった。次の瞬間、電車が滑り込んできた。彼女は俯いていて、髪に隠れた表情は見えなかった。  車両から溢れだしてくる人、人、人。  彼女はそれをすっと避けて、そのまま列に戻らずホームに残った。  私も、残った。  なんとなく気になったから。彼女を放っておいてはいけない気がした。幸い、急いで帰る理由もなかったし。  一人俯く彼女は、あまりにも儚げだった。
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