無口

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そりゃ、ね、 もう16年も隣にいるんやから、楽屋ではたいした話はしない。話すことがない。 お互いのプライベートは守る。たとえ恋人だとしても、そこはちゃんとする。大人ですから。 寂しい、なんて言わん、けど。 「なに辛気臭い顔しとんねん。」 「してないわ。」 「しとるわ。」 「ほなお前なんでそんな顔黒いねん。」 「関係ないやろ!!」 そんなお決まりの会話をすれば、ほら、また訪れる静寂。 別にいいですよ、別に。 「………っ、…なんですか。」 「……。」 「お前いきなり人の背中もたれて無言ってなんやねん」 「……。」 「………井本?」 「……ごちゃごちゃうっさいねん。」 また訪れる静寂。 違うのは、背中に感じる温もりと、距離が近づいたことで聞こえる微かな息遣い。 ああ、なんか、 愛されてる気がする。 なんとなくやけど。 (言わなくても、感じ取ってくれるから)
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